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白蒼銀の月~Prachina Bule MOON~

白蒼銀の月~Prachina Bule MOON~

贈られた本3.4


もしアタシが花ならば    アナタのために咲き誇るハナでありたい。
もしアタシが風ならば    アナタのために吹くカゼでありたい。
もしアタシがものならば   アナタのためにあるモノでありたい。
もしアタシがヒトならば    アナタのための人でありたい。

アナタのいらない。あたしはイラナイ。
-

今日、私は懐かしい女のことが気になって他に気が回らなかった。
午後に来る と書いてあったので、今日は11時30分に家に帰った。

家に帰る前にスーパーによって惣菜を買って、交差点で信号が変わるのを待っていた。
そのとき、あの猫に似た猫が足もとを走って行ったが、首輪をつけているようには見えなかったので、私はおとなしく交差点をわたった。

自分が住んでいる家のドアの前で鍵を開けた。
入ろうと足を出した途端、私は一瞬ではいる気が失せた。
これと言って私が出た時と変わらぬ景色だが、入ろうとは思わなかった。

仕方なく、私は近くの公園・・と言うよりは空き地に近いだろう所ヘ行くことにした。
が、それは叶わなかった。いや、 止めた と言う表現が近いかもしれない。
懐かしい女はそこにいた。まるで謀(はか)ったかのように。


私は声をかけた。 今朝は、本当にすいません。そう言われた。
とりあえずお昼を食べようと思っていたのだが、そんなことより鍵を見せるのが先だと思った。
女はこう言った。 お邪魔しても良いですか?
私は一瞬変な感覚を得たが、断る理由もないので、とりあえず家に行く事にした。

鍵を開けたが、今度は何も感じなかった。何故かは解らないがそれで良いかと思った。
失礼します、と一言。そういって女は入って来た。
私はずっと持ったままだった買い物袋を端に降ろし、猫の持って来た鍵を取りに行った。

私が鍵をもって女のいるリビングへ行こうとした。
また女はいなかった。紙はないので、きっと居るだろうと思う。

部屋などを探していると、女は、先日贈られた本を読んでいた。
私が声をかけると女は この本はどこでお買い求めになったんですか!?
と、激しい口調で私に尋ねた。私は貰った本だと答えた。
譲ってほしいと言われたが、私はまだ無理だと言った。私もまだ、その本を読み終えていないのだ。
読み終えたら、女の持つ本と交換する事となった。

鍵は。その日は忘れられたまま、女にもっていかれず、私のもとに残った。
女はこの珍しくもなさそうな本に興味を示した理由は謎だったが、私は彼女が交換してくれる本の方が、気になっていたのだった。

私は数日後、彼女の物になる本の、残り3分の1を読もうと思った。

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もしこの空に 限りがあるとしても

それを越えて 君に会いにゆくよ

君が現在(イマ)の狭間にいても

すぐにソコまで駆けてゆくよ

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いつもより気怠く、そして寒い日が始まった。

女は今日も来るのだろうか?その事はあまり気にならなかった。
それよりもこの、私に贈られた本にどんな価値があるのかが気になった。
たしかに面白くはあるが、これといってわざわざ探し求める程面白い本ではなかったと思う。
少年があることを探す旅を始めたが、最後は・・・・・・。
まあ、とりあえず哀しい童話のようなものだと思う。

とにかく、私にとってはわざわざ探そうとは思わない程度の本だった。

そんなことを考えながらも、私は出かける用意をした。
いつもどおり、鍵をかけて家を出た。空を見ると雲は広く重たい色をしていた。
まるですぐにでも雨が降り出しそうだったので、私は一応傘を持っていくことにした。

案の定。昼の1時をまわったところで、ぽつぽつと雨が降りだした。
雲がさらに深くたちこみ、午後3時には電気のつく家が多かった。
私は3時20分をまわったくらいに家についた。
鍵を開け、ソファに座った、その時だった。ふい、とベランダが目に入った。
何故かは自分でも解らないが、私はベランダへ出ようと思った。
雨が窓をたたく中、ガラガラと引き戸を開けた。

そこには黒猫が横たわっていた。あの時の猫だろう。

けれど、首輪は付けていなかった。
私はその猫をタオルでくるみ、雨を拭ってストーブの傍で暖めた。

親になるとはこういう気持ちなのかも知れない。
猫が起きるまで、私はストーブの前で抱えて黙っていた。
外はすっかり真っ暗になってしまった。雨は霙になり、固体混じりの雨水が落ちる音がした。
ベットの横のアナログ時計が5時24分を指していた。

腹が減ったので動こうかと思ったその時、猫はうっすらと瞳を開けた。
私が軽く頭を撫でると、落ち着いたのか目を瞑って嬉しそうに喉をならした。
私は冷蔵庫を開けて牛乳を出し、ぬるくなる程度に温めて猫にだした。


その日。猫は私の横で眠ることになった。
何故か、深い眠りに落ちる少し前に、この猫の飼主はあの女だと思った。


あの懐かしい女性だと。


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